全自動マシンは悪くない?

全自動のエスプレッソマシンを使っているお店で美味しいエスプレッソを飲んだことがない、と言う人が多い。普通は「やっぱり全自動マシンは誰でも操作出来る代わりにそこそこのドリンクしか作れないんだね」という結論に走ってしまうが、しかし本当に全自動マシンのせいなのだろうか。

最近、全自動マシンを使っている店で美味しい店が少ないのは、マシンの性能の限界という理由よりも、「その日の豆の状態等に応じたベストの設定ができる人がその店にいない」という理由の方が大きいのではないか、と思うようになってきた。

全自動マシンにも様々なメーカーのものがある。中には設定出来る項目が少なかったり、各項目の調節範囲が狭い全自動「コーヒー」マシンもあるが、良いマシンは設定出来る項目(湯温、湯量、圧力、粉量、挽き具合など)が多く、かつ各項目の調節範囲も広いので、丹念に試行錯誤しながら設定を調整すれば、エスプレッソについてもかなりの仕上がりが得られる。

実際、エスプレッソコーヒーのチェーン店などで、店舗により全自動マシンを使いながらも他の店舗と遜色ないエスプレッソを出しているところもある。これは、理想的な抽出を知っていて丹念に試行錯誤しながら設定を調整できるバリスタが定期的に設定をチェックしているからこそ実現可能なのであろう。

しかし残念ながら、そこまで丹念に試行錯誤して設定を調整できるバリスタは、自分の店を構える際に全自動マシンを導入しない。全自動のマシンでなくても納得のいく一杯を抽出できるのであれば、わざわざ高価で保守の手間がかかる全自動マシンを導入する必要はない。

全自動マシンを導入する店は、アルバイトも含め複数の店員が(店によってはセルフサービスでお客さんが)誰でも着実に一定の仕上がりを得ることを重視するのだが、店長やオーナーがエスプレッソに詳しいとは限らない。むしろ、店長やオーナーがエスプレッソにまで手が回らないからこそ高価な全自動マシンに期待している、という店の方が多いのではないだろうか。

したがって、もし不幸にして、販売業者や保守業者の方が「厨房機器や電気製品に関しては長年の経験があるがエスプレッソという飲み物自体はよく知らない」という方々だった場合、売る側も買う側もマシンの性能を引き出すことなく、哀れ高価な全自動マシンは中途半端な設定のまま、来る日も来る日も忠実に中途半端なコーヒーを抽出し続けることになる。

エスプレッソの歴史が浅い社会において、これはある程度避けがたい。厨房機器や電気製品の販売会社や保守会社である日「この度我が社でもエスプレッソマシンを扱うことにしたから、君が担当してくれ」と言われた社員と「この度当店でもエスプレッソマシンを導入したいのだが」という店長やオーナーがいた場合、双方が日常生活で既にエスプレッソに慣れ親しんでいる社会と、双方ともエスプレッソのことを最近知ったばかりで、何度かチェーン店に行ったことはあるがメニューが複雑で結局「本日のコーヒー」を頼んでしまうんだよな、という社会では、その結末は自ずから異なるであろう。

飲み手にはそんな事情は分からない。飲み手が唯一取り得る自衛策としては「いかにもエスプレッソが好きそうな店員のいる店で飲む」ということだろうか。「全自動マシンなんだから店員は関係ない」と思う人も多いだろうが、業務用マシンを導入する際に「いかにもエスプレッソが好きそうな担当者のいる業者を選ぶ」というのと同じくらい、関係がなさそうで実は関係があったりするかもしれない。

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